55で60ks時効して、それぞれTEMで撮影した制限視野電子回折パターンである[17]。図22(a)では実線の回折リングがAl母相、点線がβ-Mg2Si相として同定できる。図22(b),(c)では実線で示したAl母相の他に、点線で示した析出物からの回折リングが検出され、β相とともに、S-Al2(Cu, Mg)相、Q-(AlMgSiCu)相、θ-Al2Cu相が存在する。Cuを含む合金ではいずれもAl母相とβ相だけでは指数づけできない回折リングが存在していて、とくにQ相が存在する可能性が高い。析出物の形状も通常の6000系合金における棒状あるいは粒状ではない。HPT加工した過剰Mg型の合金試料では、転位上で観察される細長い断面の析出物やβ′中間相は観察されず、結晶粒界では、β相, Q相, S相, あるいはそれらの中間相とわずかな平行四辺形タイプの析出物が確認される。したがって、微細粒組織では析出粒子はほとんどが結晶粒界で生じ、転位上や結晶粒内の析出は非常に限定される。2-3 スピノーダル分解の活用 微細粒子の析出分散は核生成・成長だけではなく、スピノーダル分解でも期待できることである。図23はA2091合金(Al-2.1%Li-2.0Cu-1.55%Mg:単位はmass%)の溶体化材(左列)、圧延材(中央列)、HPT材(右列)のTEM組織を示したものである[10]。ここで、溶体化は778Kで30min行い、圧延は室温で10%、HPT加工は室温で6GPaのもと5回転行ったものである。図23(a,b,c)は時効前、図23(d,e,f)は373Kで28days、図23(g,h,i)は463Kで10h時効したものに対応する。時効前の明視野像は溶体化材、圧延材、HPT材にそれぞれ特有の組織で、圧延材では多数の転位が観察され、HPT材は制限視野回折パターンがリング状であることも考慮すると大角粒界の微細な結晶粒からできている。373Kの時効材では、制限視野回折パターンの矢印で示す規則格子反射で撮影した暗視野像から、ナノサイズのδ’(Al3Li)相粒子が高密度に生成している。特に、HPT材では数百nmの微細な結晶粒内全体に確認される[10]。463K時効では、溶体化材と圧延材では球状の微細なδ’相粒子が確認されるが、HPT材ではもはやδ’相粒子は大きく成長した状態にある。 図24は図23に示した溶体化材、圧延材、HPT材の時効に伴う硬さ変化を示したものである[9,10]。図24(a)は373K時効の場合で、図24(b)は463K時効の場合である。HPT材では、463K時効で硬さは時効とともに減少しているが、373Kでは増加し、しかもHPT加工で全体的に硬さレベルが2倍以上に増加しているところに、時効によるさらなる強化で300Hvに近いアルミニウム合金としては非常に高い硬さレベルに到達している。一方、溶体化材や圧延材はいずれの時効温度でも硬さが増加し、463Kでは長時間後に軟化が生じている。時効温度が高ければ時効現象は速めに進行することと一致する。このような硬さ変化は図23のTEM観察結果より十分に理解されるものである。 廣澤らは、図23(f)のようにHPT加工したA2091合金で高密度のナノ粒子が微細結晶粒中に分散したのは[18]、スピノーダル分解よるためと解釈した[9,10]。図25はAl-Li二元系状態図で、本合金のLi濃度(2.1mass%)における463Kの時効温度は核生成・成長領域、373Kはスピノーダル分解領域に位置する。そのため、同じδ’相が析出する場合でも、373K時効ではスピノーダル分解によって析出することになり、粒界析出の抑制と粒内析出の促進が図られたものと考えられる。したがって、スピノーダル分解は結晶粒微細化と析出強化の同時強化に効果的で、アルミニウム合金のみならず他の合金系でも高強度化に繋がる有
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