622.1.2 研究の意義と目的 よって、本縦型高速双ロールキャスターを有効利用し、かつ改良を加えることによって、溶質元素の固溶限拡大、マトリックス結晶粒の微細化、第2相粒子の微細均一分散化等によりスクラップ溶湯の鉄の無害化を図り、再生材の材料特性を改善することができれば、アップグレードリサイクルの実現に寄与することができると考えた。また急冷凝固効果を利用して、その他のアルミニウム合金についてもその特性改善や新たな機能の付与を図ることが可能であると考えた。 このようなことから本課題研究では、縦型高速双ロールキャスターを用い、急冷凝固効果による6000系アルミニウム合金中の鉄の無害化を図るとともに、その他、鋳物・ダイカスト用アルミニウム合金の組織微細化による力学的特性の向上に取り組んだ。また大径双ロールキャスターや異径双ロールキャスター等、新しいタイプの縦型双ロールキャスターの開発にも着手した。2.1.3 研究の成果 本研究で実施した一連の課題と得られた成果をまとめると以下のようになる。 縦型高速双ロールキャスト法を用いて作製した板材を冷間圧延して薄板を作製した。熱処理した薄板について曲げ性ならびに引張特性を評価したところ、3.0 mass%Feまでは大きなき裂は確認されず、良好な曲げ性が得られることがわかった。なお、鉄量の増加はAl-Fe-Si系金属間化合物の晶出に伴うSiの消費により本合金の時効硬化能を低下させたが、鉄量が6063合金の鉄許容量の約2倍である0.70 mass%までであれば時効硬化性は維持できることがわかった。 同様の手法を用い、6022合金の高速双ロールキャストを行った。6022合金では鋳造条件によっては板厚中央部に割れが生じた。組織観察の結果、この割れの原因は凝固収縮による引け欠陥であることがわかった。そこでバネ荷重の低減、ノズル位置の調節、ロール材質の変更等により冷却速度を幾分低減したところ6022合金の割れは軽減した。このように健全な高速双ロールキャスト材を得るには、合金種に応じた適切な冷却速度の選択が必要であることがわかった。 次に割れの発生しない条件でロールキャストした鉄を増量した6022合金ならびにDC鋳造に相当する冷却速度で凝固させた金型鋳造材を出発材として均質化処理、冷間圧延、溶体化処理により薄板を作製し、これらの曲げ性ならびに引張特性について比較した。Siを多く含有する6022合金においては鉄量が増加しても時効硬化能は低下しなかった。ロールキャストによる急冷効果は曲げ性の向上には繋がらなかったが、ロールキャストにより凝固組織を微細化すれば、たとえ均質化処理を省略しても、その後の時効硬化による強度増加が得られる可能性があることがわかった。さて、6063合金では割れが生じないのに6022合金では発生してしまう理由を明らかにするために、6000系合金の基本組成であるAl-Mg-Si系合金の高速双ロールキャスト材について、Si量と板厚中央部割れの起こりやすさの関係を調べた。その結果、Siが1〜2 mass%のとき割れが発生しやすいことがわかった。これはAl-Si系2元合金の鋳造割れとSi量との関係によく対応している。 次に、鋳物・ダイカスト用アルミニウム合金の組織微細化による力学的特性の向上に取り組んだ。AC4CH合金を高速双ロールキャストし、共晶Si相粒子が均一微細に分散した凝固組織を得た。これより薄板を作製し曲げ加工を行ったところ、き裂を生じることなく180°曲げが可能であった。よって高速双ロールキャストすることにより鋳造用合金に成形性が付与できることがわかった。 さらに通常真空ダイカストして使用される2種類
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